「お忘れ物のないように」。日常的に多くのタクシードライバーから掛けられる言葉です。しかし、なぜその言葉を言わなければならないのかを、本当に理解しているドライバーは少ないのではないでしょうか。
会社の指示で言わされる言葉は「作業」としての声掛けでしかないのです。「作業」では、やったという事実はあっても、そこから生み出されるものは何もありません。だから忘れ物は減らないし、お客様の心にも、何も残すことが出来ないのです。
この言葉の本当の意味は、忘れ物があったらお客様が困る。ドライバーも業務が増えて大変。だからこそ、忘れ物を失くそうというものではないでしょうか。声掛けは、忘れ物を失くすための一つの手段に過ぎないのです。
客席を振り返るドライバーは多くいます。でも、降りる時に足元に落とした携帯電話の忘れ物は多いと聞きます。振り返ったくらいでは客席の足元は見えません。次の仕事に向かう前に今、目の前にいるお客様への仕事をしなければならない。その意識を持つことが真のプロとしての仕事を生み出すのではないでしょうか。
シートベルトを外して後部座席に乗り出すように確認をする姿は、御世辞にもスマートなものではありません。しかし、そのドライバーは、これまで私が乗ったどのタクシードライバーよりカッコよく輝いて見えました。
サービスの提供が終わり、お金をいただいたらそのお客様への仕事は終わり、そういうサービス提供者が多い。次の利用機会を生み出すことこそが仕事なのです。先にお客様を見送ったタクシードライバーが、後から到着した同僚のタクシードライバーと2人で、空港ターミナルに入って行くお客様を見送る姿がありました。お客様がその見送りに気付かなくても、その瞬間を周りにいる多くの空港利用者が見ているのです。
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