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◆『もてなし上手』~ホスピタリティによる創客~ 第18回:平成24年7月1日掲載
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感謝を込めてのおもてなし~17年前のお礼状と再会~
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6月に「おもてなしセミナー」を東京、大阪、福岡で開催しました。その時「個人の参加でも良いのでしょうか」という電話が入りました。「会社の代表でも、個人でもスキルアップは可能です」との返事で参加が決まりました。その後、その方(A氏)からのメールに、驚きの内容が記されていたのです。
それは、A氏が17年前にもらったというお礼状についてでした。当時外資系の航空会社に勤めていたA氏に、お客様から1通のお礼状が届いたそうです。そこには、A氏のおもてなしの素晴らしさが書かれていたそうです。A氏にとってそのお礼状は、その後勤めた17年間のつらい時や苦しい時の支えとなり、今日まで顔晴って来られたということでした。
さらに私を驚かせたのは、「その方にずっとお礼が言いたいと思っていました。そのお客様というのが、西川さんなのです。東京でお目に書かれる事を楽しみにしています」というものでした。そしてセミナー当日、17年振りの再会を果たしました。 |
何とA氏は17年前に私が書いたお礼状を持って来て下さったのです。17年の歳月を感じるボロボロになった3枚の手紙は、テープで丁寧に補強されていました。その手紙を震える手で読ませてもらいました。文章も文字も赤面してしまうほどひどいものでしたが、その手紙が人の役に立った事をうれしく思うとともに私自身が感動してしまいました。
お客様からいただくお礼状は、決して当たり前のものではないということも分かっています。しかし、たくさんのお礼状をもらう優れた人や経験の長い人は、いただくお礼状に対しての感動が弱くなっていないでしょうか。果たして、いただいたお礼状のうれしさをお客様に伝えているでしょうか。その発信が出来た時に真にそのお客様との絆が結ばれ、実行したおもてなしが企業価値に変わるのです。はじめてお礼状をもらった時の感動を忘れることなく、その感動と感謝の想いを込めて今日のおもてなしが実行できたら、間違いなく新しいお客様の素晴らしい笑顔に出逢えるはずです。
おもてなしとは「想い」のキャッチボールであると同時に、お客様だけではなく、私達のビジネスを支えてくれるパートナー(出入り業者)の方々に向けても発信されるべきだと思います。彼らがいないと私達のビジネスが成り立たない事を、忘れてしまっていないでしょうか。「いつもありがとうございます」。その一言が、その後を変えることになるかもしれません。声を掛けた人が笑顔になれば、その笑顔を見るお客様方もきっと幸せな気分になれる。これもおもてなしのキャッチボールです。 |
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◆『もてなし上手』~ホスピタリティによる創客~ 第19回:平成24年8月1日掲載
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間違ってもやり続ける価値~続ければ自信にもなる~
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出逢った瞬間に、お客様にショックを与える。それがどれだけの価値を持つか。ある温泉地の観光協会の依頼で「おもてなし研修」の講演をしました。講演終了後に、尊敬する旅館経営者から「良い話を聞いた。間違ってもやり続けるというのは、本当にそうだね」と声をかけられました。
その経営者の旅館でも以前に、素晴らしい取り組みを実行していましたが、わずかな間違いから、やめてしまったそうなのです。その取り組みは、ご予約のお客様がマイカーで到着された時に「○○様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」と車を降りた瞬間に、お名前を呼ぶというものでした。当然、お客様は驚かれると同時に笑顔になり、名前を呼んでもらえた事をうれしく思われたことでしょう。
来館と同時に得た感動は、それからはじまる数々のおもてなしを、より高い満足度に感じてもらえるものです。予約の時に来館方法を伺っておけば、お客様の車のナンバープレートの登録地と人数で、お客様が特定出来たのです。ところがある時、その大切なお名前を間違えてしまい、その後その取り組みはお客様に失礼だからとやめてしまったそうです。 |
ところが、私の大好きなレストランカシータは、毎日同じ間違いをしています。レストランのあるビルの前ではカシータのスタッフが毎日待ち構え、停車するタクシーのドアを開け、必ずお客様の名前をお呼びします。「お待ちしておりました。西川様」といった具合に。
ところが、その乗客からの返事は「いいえ違いますよ」。当然、そこに停車するタクシーは、カシータに来た人だけではなく、買い物に来る人もいます。しかし、何度間違っても、やり続けるのです。たった1人のその方に出逢える瞬間まで。その瞬間が来た時、必ずお客様は驚かれ、笑顔になる。その笑顔を見たくて、間違い続けているのです。
間違えれば「失礼しました」と謝ればいい。たったそれだけのことと、いとも簡単に言ってのけるオーナー高橋氏の言葉には、やり続けて、お客様を笑顔にして来た自信がありました。間違ってもやり続ければ自信にもなり、それはいつか他社を圧倒する価値を創り出すのです。
軽井沢の「星のや」では、軽井沢の駅に迎えに来てくれた送迎バスのドライバーに名前を告げればホテルに着いた時に、スタッフが名前を呼びながら荷物を預かるために掛け寄ってくれるのです。ドライバーが乗車したお客様の情報をホテルに知らせる。たったこれだけの工夫で到着した瞬間にお客様を一気にファンにしてしまうのです。できないことなどない。間違ってもやり続ける。そこから工夫も生まれるのです。 |
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◆『もてなし上手』~ホスピタリティによる創客~ 第20回:平成24年9月1日掲載
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企業で創り出す「おもてなし」~大きな感動も創造する~
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「ホスピタリティとは、おもてなし=一期一会である」と私は言っております。そして、おもてなしとは、「想って為す事」からはじまるのです。
満員の電車で、あなたは座っているとします。その時に目の前に妊婦やお年寄りが立った時、あなたはどの様な行動を取りますか。誰もが、その人に席を譲ることを頭にイメージすることでしょう。しかし、実際には行動できる人は意外と少ないのです。
お客様に何かをしてあげたい。そうすることがきっと喜ばれるだろう。そういう「想い」を持った時に、その行動が実行できるのです。恥ずかしい、面倒くさいと思う気持ちに勝ち、実行する。おもてなしとは、その行動を指すのです。
サービス従事者の誰もが、お客様に喜んでもらいたいと思っています。ただ、どんなにその想いを持っていても、お客様に伝わらなければ、無かったも同じ。想いを伝える事こそが、価値を生み出すおもてなし行動なのです。 |
この行動を個人ではなく、企業として実行している素晴らしい事例を福岡で見つけました。ある日、空港に向かうためホテルに呼んだのはMKタクシーです。乗車と同時に有名なMKタクシーの基本用語が次々に実行されます。「本日はご乗車いただきありがとうございます」「本日、空港まで送らせていただきます○○です」「指定の道はありますか」「車内の温度はいかがでしょうか」。
快適なドライブの後、空港に到着。料金の支払いを終えれば、次にドライバーが取る行動は分かっていました。運転席から出てきて、客席のドアを外から開けてくれる。
そうイメージしていた時、驚いたことに、まだドライバーが運転席にいるにもかかわらず、ドアが開いたのです。
少し開いたドアの外から「よろしいですか」と。そこにMKタクシーのドライバーが立っていたのです。私の乗ったタクシーが到着した時、お客様を見送り終わった別のMKタクシーが停まっているのは気付いていました。実は、そのドライバーがそのドアを開けたのです。
1つの仕事が終われば、次のお客様を得るために少しでも早くその場を離れたい。普通のドライバーであればそう考えるでしょう。ところが、MKでは別のMKタクシーが到着すれば、そのタクシーに乗っている人も大切なお客様。その意識がそういう行動をとらせたと思います。
一人ひとりが目の前のお客様を「私のお客様」と捉えて行動出来れば、1人が創造できる感動どころではない、大きな感動を創り出すことができるのです。 |
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◆『もてなし上手』~ホスピタリティによる創客~ 第21回:平成24年10月1日掲載
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客室案内サービスが商品となる時に感動が生まれる~滞在を楽しませる役割を~
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「いつもと同じ風景で申し訳ございません」。客室案内スタッフから掛けられたその一言が、どれだけ重要であるかを知る人こそ、おもてなし上手なのです。
そのホテルには1年に数度しか泊りません。フロント係が周辺を通りかかった客室案内スタッフに、「西川様です。お部屋へのご案内をお願いします」と声をかけました。そのスタッフはキーを受け取り、客室へ案内します。
ドアを開けて私の後から部屋に入って来たスタッフの発した言葉がそれでした。しかも「本日はいつもより高い階にお部屋を準備させていただきましたので、ちょっと違った角度で風景をお楽しみいただけますよ」と続けたのです。これらの言葉を発するには、私が過去に泊った部屋の方角と階数を知っていなければできないことです。これをさりげなく言葉にして伝えることで、感動を創造するという素晴らしい仕組みです。
フロントから客室までの間に、今日の宿泊顧客情報を見る、もしくはインカムで情報を得る。どちらにしろ、この言葉が重要なおもてなし行動であることを知らなければ、その行動に価値を生み出すことはできません。 |
大阪にあるホテルに滞在した時、客室からの風景について、スタッフに尋ねました。「あれは淡路島ですか?」「いいえ、ここからは見えません。遠いですから」。しかし、どう考えてもそれは淡路島でした。その理由を話したところ「確認してまいります」といって、いったん退出しましたが、結果は淡路島でした。
客室案内スタッフは、迷うかもしれないお客様を部屋に案内する役割ではありません。また荷物を部屋に運ぶ、客室の使い方を説明するのが仕事でもありません。案内した客室でゆっくりと寛いでいただきながら、滞在を楽しんでいただくためのお手伝いをするのが役割ではないでしょうか。客室から見える風景はその旅館・ホテルの大切な財産の一つです。
都内のホテルで忘れることができない思い出があります。客室の説明を終えたスタッフが「お部屋は気に入っていただけましたか?」の一言を発する前に、「ちょっと失礼します」と言って、窓のカーテンを開け、そこから見える風景の案内をはじめたのです。「下に見えるのが国会議事堂で、その向こうに間もなく点灯するスカイツリーが見えます」。私は思わず「本当だ!見えますねぇ」と、声を上げてしまいました。
翌朝のチェックアウト時には「スカイツリーは楽しんでいただけましたか?」とスタッフがうれしい言葉を掛けてくれました。ここに客室案内スタッフとフロントスタッフが協力をして、お客様の滞在を価値あるものにしようとするおもてなしを感じたのです。 |
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◆『もてなし上手』~ホスピタリティによる創客~ 第22回:平成24年11月1日掲載
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顧客から個客サービスへの進化の時~ただ1人のお客様の為に~
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航空機利用の出張が多いなかで、記憶に残るおもてなしがあります。それは、今でも捨てる事の出来ないメッセージカードとして、手元に残っています。
ホテルでの滞在が続き、空調で喉を痛めていた時、移動の機内で眠ってしまい、いつの間にか目的地に到着。降りる時にキャビンアテンダントから「西川様、いつもありがとうございます。のど飴お持ちになって下さい」と、小さなビニール袋を手渡されました。
自分が咳をしていたのはなんとなく覚えています。「ありがとう」と受け取って、ポケットに入れ、電車でその袋を取り出した時、思わず「やられた!」という感動でいっぱいになりました。なんとその袋の中に小さなメッセージカードが入っていたのです。
カードには「いつもご搭乗いただきましてありがとうございます。暑い日が続きますので、体調にお気を付けてお過ごし下さいませ」とメッセージが手書きされていました。忙しい機内業務で、わずかな時間を見つけて私のためにのど飴を袋に詰め、手書きのメッセージまで添えるという行為に、この航空会社を選んで良かったと思ったのです。
サービス業では、多くのお客様へ日々サービスを繰り返し実行し続けなければなりません。クレームの出ないように最善の注意を払いながら笑顔で対応する。そこに生まれるのが、均一化されたサービスなのです。 |
しかし、それではクレームが出なくても感動は生まれません。感動が生まれないから、次の利用が約束されない。その繰り返しのように思います。クレームを恐れず、感動を創り出すことにチャレンジすればおもてなしは生まれます。
お客様の名前を間違えることを恐れて、「お客様」と呼び続ける企業が多くあります。タクシーで乗り付けた時に、受け取ったキャリーバックに付けた名札を見て「西川様、いらっしゃいませ」と声を掛けてくれた福岡のグランドハイアットでの出来事をクライアント企業に話した時のことです。「もしそのカバンが誰かからの借りたものだったら、名前を間違うことになる。そんなことはできない」だから「お客様」で仕方がないのだ、という声を聞きました。
ただ1人のお客様のために、その行動を実行する。そこに「創客」のできるおもてなし行動が生まれるのだと思うのです。どんなにレベルが高く気持ちの良い行動であっても、均一化されたサービスはおもてなしとは言いません。
お客様一人ひとりを「個」と捉えて、そのお客様への個別対応をしていくことでしか、真の目的である創客のおもてなしはできないのです。一枚の手書きメッセージカードにそれを感じたのです。 |
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◆『もてなし上手』~ホスピタリティによる創客~ 第23回:平成24年12月1日掲載
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タクシードライバーのもてなし力~もてなしの「人間力」~
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先日、長野県松本に出張の折、すごいタクシードライバーに出逢いました。「西川さん、いかがでしたか」。その一言に、それまでの疲れはどこかに吹っ飛び、楽しい会話に、わくわくしとした時間を過ごすことができたのです。
その日は予定より少し早めに到着しました。季節は、新そばの時です。1度行ってみようと思っていたそば屋へ、駅前からタクシーに乗り、「帰りは店の人にタクシーを呼んでもらおう」と考えていた時、「おそばお好きなんですか」と、ドライバーからいきなり問いかけられ、「ええ、好きですね。ドライバーさんも」。「好きですよ。週に4日はおそばです」と会話が弾み店に到着。
「お帰りはどうされるのですか。この近くにご宿泊ですか」「いいえ、駅までまた戻ります」「じゃあ、食べ終わられたらまた呼んで下さい」と、タクシーカードをもらいました。
この当たり前の言葉と行動に出逢う機会は本当に少ないのです。予定を済ませて帰ろうとしても、公共交通機関はない。流しのタクシーもほとんど走っていない。そんな場所に降ろしてもらっても、帰りの心配をしてくれるドライバーはほとんどいません。ひとつの仕事が終われば、それで完了なのです。 |
一声かければ仕事を創造することができるのに、いつになるか分からない順番待ちの駅に戻って行くのが一般的なタクシーなのです。そばを食べ終わった後、当然そのタクシー会社に連絡をしました。そして、再び出逢ったそのタクシードライバーから驚くようなおもてなしの言葉を掛けられたのです。それが、「西川さん、いかがでしたか」という言葉です。久しぶりに感動しました。
タクシーを電話で呼ぶ時には、当然のように配車センターに名前を伝えます。迎えに来てもらった時に、「西川様ですか」と聞かれることはあります。しかし、それはお客様を間違えないように乗車させる確認の名前でしかありません。その後に名前を呼ばれることは、まずありません。ドライバーとの会話があったとしても、そこは密室での会話なので、名前を呼ばなくても会話は成立するのです。しかし、そのドライバーは会話の中に何度も何度も「西川さん」という名前を繰り返し使ってくれたのです。そのお店を出発した時に「駅でよろしいですか」と聞かれ、思わず「山中さんのおすすめのお店に、もう1軒連れて行ってくれません」と言ってしまいました。理由は、「もう少し話したかった」なのかもしれません。もっと話したい。そうお客様に感じさせる力こそが「価値」であり、もう1度逢いたい、と感じさせるおもてなしの心を持った「人間力」なのです。 |
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